星枢観測所

冷蔵庫の白猫

 冷蔵庫で白猫が寝ているらしい。彼は白いから冷たいところで寝るのだ。そう聞いたので、冷蔵庫の扉を開けると、確かに白猫が丸くなって寝ていた。棚を覗くと猫缶が無くなっていたので、外に出ることにした。
 帰ってきて冷蔵庫の扉を開けると、大きな石がそこで冷えていた。
(2019/05/10)

時計塔の神様

 あの時計塔の天辺には、神様が居るらしい。
 白い顔をした娘を助けるために、人気無きその塔を登った。中は木製のタイルや本棚でいっぱいで、煩雑としていたが埃は被っていなかった。中央に据えられた螺旋階段を登っていく。棚は小物や本で一杯で、不思議の国のアリスの落ちてくる場所を登っている気分になった。
螺旋階段の果てには、小さな木製のタイルドアがあった。扉を開けると、君が居た。そういえば、塔の中にあったものは全て彼女が好きなものばかりだった。
 娘は微笑んで、「来てしまったのね」と呟いた。
(2019/05/10・死んだ者は神となる、仏となる。)

砂漠の赤獅子

 砂漠を歩いていた。緋色の獅子に会うためだ。
炎天に焼かれ、砂に足を取られながらも進み、とうとう精根尽き果てて砂の中に倒れ伏した時、何かに咥えられて日陰のある場所へと捨てられた。
 緋色の獅子が目の前に居る。
「我は常昼の王、赤獅子である。是は何用で参られたか」
 男は平服して答える。
「この国に太陽が登り続けているのは貴方のお陰です。しかし、既に水は干上がり、民は飢えて砂漠は赤く染まり、私の娘も乾ききって御座います。何卒、その命を頂きたく。」
 赤獅子は男の言葉を聞くと、静かに鬣を揺らし、空を見上げた。
「それがこの地に生きる者の答えなら、この心の臓は貫けよう。そうでなければ、その身は焼けるだろう。」
 男は腰の短剣を取り出すと、差し出されたその胸に突き立てた。赤い血が地面を濡らし、獅子は静かに目を閉じた。陽は傾き、日陰だった場所に光が差し込むと、獅子の身体は石となり、やがて地の果てに陽は落ちて、明けることの無い夜が来た。
(2019/05/10・太陽の化身と砂漠の民)

少女とうさぎの旅

 月が満ちている。地平の果てまで真っ暗闇で、少しだけ心細くなる。
 そんなときは、白いうさぎを探す。今日も付いてきている筈だ。探してみると、地面に空いた穴から白い物が見え隠れする。持ち上げると、確かに可愛い私の友達だ。
 二人で一緒に歩き始める。当てもなく、星明りが照らすこの道を。山を登って、海を歩くと、地平の果てに月は沈んでしまう。するとまた心細くなって、海の底で二人で静かに眠る。
 そして起きたらまた探すのだ。あの青く光る月を。
(2019/05/10・月の住人たち)