星枢観測所

かたなしくちわ

 真っ暗闇の夜の事。
 帰り道、歩いていると、電灯の下にかたなしくちわの親子が現れた。
 大きなかたなしくちわは「息子を見てないか」と聞いて来た。
 大きな角は鹿のようだが、悲しそうにふらりと細かく揺れた。
 私は「あなたのとなりにいるよ」と言うが、大きなかたなしくちわには見えないらしく、どこだろうと言って私を通り過ぎ、もう一つ先の電灯を曲がっていった。
 ちいさなかたなしくちわはしくしくと泣きながら、しかし涙は見えず、表情も変わらなかった。
 けれどもちいさなかたなしくちわは泣いていた。泣きながら、大きなかたなしくちわの後を着いていった。
 雨の日の泥の匂いがした。
 そういえば、私の一つ後ろにある電灯は、曲がり角など無い筈なのだが、彼らは一体どこを曲がっていったと言うのだろう。
(2018/06/■(記録無し))

神様が消えた世界

 この世界を作った神様は消えてしまったらしい。神様の居なくなった後の世界は、段々壊れてきている。
 平成最後の夏、異常気象なまでに日差す太陽と熱気から隠れるように、ひまわり畑の陰にある、とうの昔に廃線されたバス停へと逃げ込んだ。そこには近隣の住民たちの、捨てる場所に困ったものがごろごろと転がっている。ひしゃげた自転車に寄り掛かるように、埃まみれのオーブンのと挟まれて、酷く白い肌の、美しい人形が鎮座していた。
 じりじりと焼く日差しも届かず、ただじわじわと熱気が僕らを取り巻く。数週間前から変わらない美貌と、溶けかけたプラスチックの匂い。
 僕は数週間前、彼女に心を奪われた。
「君が僕の神様だ。」
 彼女の手を取って、項垂れる。壊れかけたこの世界には、既に望みも救いも無い。どうしようもないこの気持ちは、どうにもならない彼女によって生まれてしまったからだ。いっそ君に狂ったまま殺されたい。
 その頰に触れて、彼女の顔を見た。
 閉じていた瞼がゆっくりと開いて、静かな瞳が僕を見た。
(2018/09/13・twitterのタグ:#世界・神様・僕を使って文章を作ると性癖が出る)