星枢観測所

「テレビ」

 テレビがある。
 座って観ている。姉が部屋に入ってきて通り過ぎる。その先は窓だ。
 テレビには教育番組らしき放送が「よくわかるしたいのかくしかた」と題の付いてにぎやかに流れている。
 父が部屋を通って窓へ向かう。私の後ろをテレビ越しに通るのが映っていた。
 放送は「したいのひょうじょうのみわけかた」に変わっている。
 私は部屋のドアにロープをぐるぐる巻きにして部屋のフックに引っ掛けて施錠した。
 母が部屋を通って窓へ向かった。
 私は我慢がならなくなって、テレビを強く蹴りつけた。ぐらぐら揺れて、音を立てて倒れただけだった。
 私は窓のところへ向かい、下の方を覗くと、植わっている大きな木の枝に、四人の死体が下がっているのが見えた。
(16/09/23(金)・お題:テレビモニタ)

「手紙」

 学校の図書室にひんやりとした空気が流れ込んでいた。外は曇天、少々肌寒かった。
目の前にはわが友垣が厳めしい学術書を読んでいた。
 私は目の前に広がる真っ白な紙を眺めた。書架から持ち出した詩集を開き、ちょうどいい言葉を探し出す。目の前にいた友垣がふいにできましたか、と聞く。もう少し、と返すと、鼻で笑われた。少し怒りながらも手紙を完成させる。
これは、数か月前から続く文通の物だ。街にある古錆びたポストに投函すると、宛先も書かれない手紙の返事が返ってくるのだ。友垣はそんな私の様子を不思議そうに眺めている。
彼は文通と言えば、と話し始めた。 祖父のしまってあった物がこの前出てきて、古びた手紙が束になって出てきたんですよ、と言って鞄から古びた手紙を一通取り出した。偶然ですよね、貴女の名前と差出人が同じなんですよ、と目の前に差し出されたのは、私が今書いている手紙の、朽ち果てた姿だった。
ね、不思議ですよね、と友垣は言った。
そのとき私は、この肌寒さがエアコンの所為ではないことに気付いた。
(16/09/24(土)・お題:エアコン)

「バナナ」

 少し行くと、道端には様々な熱帯の樹木が生えている。マンガ(マンゴー)、バナナ、アバカシ(パイナップル)、ラランジャ(オレンジ)と、大抵が大きな木の高いところに生い茂っていた。
バナナの木の下には、赤茶色の猫が居た。この時間に、待ち合わせをしたのだ。猫は前足でバナナの木をポンと叩いて、バナナが食べたいと意思表示した。見上げると、頭上に食べごろのバナナの房が連なっていた。猫は不遜そうに私を見ていた。
 手を伸ばすと、絶妙に届かない位置に生っていた。私は、木をしならせて、実を近くまで持ってきた。両手は木を引っ張るので手一杯で、片手も離せなかった。すると、猫が私の背を伝ってバナナの房の一部に乗り、体重によって落とした。油断した私は手を放して、大きなバナナの葉に勢いよく顔を撫でつけられた。
猫は不遜そうにバナナに足を置いた。私はその実の皮をむいて猫にやると、かつがつと頬張って、ありがとうと猫は言った。頭を撫でてやろうと手を置くと、フシャッと威嚇された。
(16/09/25(日)・お題:バナナ)

「世界樹」

 この世界の中心には世界樹という、天まで届くような大きな木が生えている。その木は、ドラゴンたちが飛び交い、木に近づく不届き者を地獄の底へと叩き落とすのだと言う。
僕は、なけなしのお金で買ったカメラを持って、世界樹を目指した。高値で売れる写真を撮るため。誰もが敬い、焦がれるあの場所へ。
二月三月と過ぎ、世界樹も近付き、その境界である細い川を飛び越えると、遠くにドラゴンが見えた。さらに進むと、ケンタウロスが横から現れて、僕は空へと蹴り上げられた。通り道だったらしい。中空を漂いながら、世界樹へと近付く。ドラゴンはそんな僕に気が付くと、ぱくりと食べて、世界樹の上層にある巣へと吐き出した。二匹いる雛は現在眠っていて、僕をここまで運び込んだドラゴンはまたどこかへと飛び去ってしまった。
僕は、思わずカメラを取った。此処から、この世界を一望出来たから。そして、ドラゴンたちが守る、世界樹の秘密を知ってしまったから。巨大な葉達の奥に、厳めしそうな重い瞼が、しっかり閉じているのを見た。それを、数々の魔術で眠りに就かせている、ドラゴンたちがいたから。
(16/09/25(日)・お題:世界樹、カメラ、ドラゴン)