星枢観測所

「釣り」

 ある池の畔に男が居た。私はその隣で釣り糸の先を見ていた。
 男は、「今に釣れる、もうすぐ釣れる」といいます。
 私は池の中を覗いてみるけど、薄く濁った池の先に生き物の形は見えません。
「池の底に魚が居てね、もうすぐ釣れるよ」
 男はそう言いますが、水面に垂直に垂らされた釣り糸は動く気配がありません。
 私は釣れるかどうかが怪しくなってきました。男は変わらず「今に釣れるよ、すぐ釣れる」といいます。
 男がそう言うので、私はじっと釣り糸を見ていました。

 男が釣り糸を持ち上げます。それはとても大きなもののようでした。
 釣り糸が完全に水上に揚げられました。
 それは、隣に座っている男の死体でした。
 隣に座っている男は、「な、釣れただろう」といいました。
(不明)

「流星群」

 ある青年が座敷にいた。青年は「プラネタリウムに行こう」といいます。
「流星群があるんだ」
 私は流星群が見てみたくて、二人でプラネタリウムへと出かけました。

 プラネタリウムでは、部屋がドーム状になっていて、ガラス張りの天井から星空がよく見えるのでした。
 きらり、と流れ星が落ちました。
 青年は言います。
「流れ星はね、神様になれなかったものの成れの果てなんだよ」
 私は、「流れ星は隕石が成層圏に入って摩擦熱で燃え尽きているものだよ」と言いました。
 青年はいいます。
「そんなもの、君が見て考えたものではないだろう」
 確かにそうだと思いました。
「確かに自分で見たものでもないのに」
 青年はそう続けて、もう一つ流れてきた星を指さしました。
「またひとつ、落ちてきた」
 流星群は増えてきます。ぽろぽろと流れ星が一面から降ってくるようになりました。
「神様っていうのは空に居るものだから、それになりたくて登るけど、大体は途中で力尽きて落ちてしまうんだ」
 宇宙を泳ぐめだかのように、細いものがぽつぽつと落ちてきています。
 そうしてしばらく、ドームの向こうから落ちてくる流星群を眺めていました。
(不明)